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名古屋地方裁判所 昭和61年(ワ)1661号 判決 1989年5月31日

原告

細川一

被告

愛知県共済生活協同組合・愛知県労働者共済生活協同組合

ほか三名

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告東京海上火災保険株式会社(以下「被告東京海上」という。)は、原告に対し、金二一三万円及びこれに対する昭和六一年六月五日から完済まで年六分の割合による金員を支払え。

2  被告同和火災海上保険株式会社(以下「被告同和火災」という。)は、原告に対し、金三四一万五〇〇〇円及びこれに対する昭和六一年六月五日から完済まで年六分の割合による金員を支払え。

3  被告日動火災海上保険株式会社(以下「被告日動火災」という。)は、原告に対し、金七三六万八〇〇〇円及びこれに対する昭和六一年六月五日から完済まで年六分の割合による金員を支払え。

4  被告愛知県共済生活協同組合(以下「被告県共済」という。)は、原告に対し、金二六八万八七〇〇円及びこれに対する昭和六一年六月五日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

5  被告愛知県労働者共済生活協同組合(以下「県労済」という。)は、原告に対し、金三八一万四五〇〇円及びこれに対する昭和六一年六月五日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

6  訴訟費用は被告らの負担とする。

7  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  訴外細川吾一は、昭和五九年一二月一四日、被告東京海上と左の保険契約を締結し、保険料を支払つた。

(一) 保険種類 普通傷害保険

(二) 保険期間 昭和五九年一二月一五日から同六〇年一二月一五日まで

(三) 保険金額 入院保険金日額金一万五〇〇〇円

通院保険金日額金五〇〇〇円

(四) 保険料 金三万八七五〇円

(五) 被保険者 原告

(六) 特約条項 通院担保

2  原告は、昭和六〇年六月一五日、被告同和火災と左の保険契約を締結し、保険料を支払つた。

(一) 保険種類 自家用自動車

(二) 保険期間 昭和六〇年六月一五日から同六一年六月一五日まで

(三) 保険金額 対人賠償一名につき 無制限

自損事故一名につき 金一四〇〇万円

無保険車傷害一名につき 金二億円

対物賠償 金三〇〇万円

搭乗者傷害一名につき 金一〇〇〇万円

(四) 保険料 金一〇万一七六〇円

(五) 被保険自動車 登録番号 ナゴヤ59ネ4245

用途車種 自家用・小型乗用車 家庭用

(六) 被保険者 原告

3  原告は、被告日動火災と左の保険契約を締結し、保険料を支払つた。

(一)イ 契約日 昭和五九年一二月一五日

ロ 保険種類 団地保険

ハ 保険期間 昭和六〇年一月一日から同六一年一月一日まで

ニ 保険金額 金一〇〇〇万円

ホ 団地傷害 二〇口

ヘ 保険料 月額金三二二〇円

(二)イ 契約日 昭和五九年一二月一九日

ロ 保険種類 積立フアミリー交通傷害保険

ハ 保険期間 昭和五九年一二月一九日から同六四年一二月一九日まで

ニ 保険金額 入院保険金 日額 本人 金一万五〇〇〇円

通院保険金 日額 本人 金一万円

ホ 保険料 月額金三万八三八〇円

ヘ 被保険者 原告

(三)イ 契約日 昭和六〇年三月一九日

ロ 保険種類 積立フアミリー交通傷害保険

ハ 保険期間 昭和六〇年三月一九日から同六五年三月一九日まで

ニ 保険金額、保険料、被保険者は(二)のニないしヘに同じ

(四)イ 契約日 昭和六〇年三月一九日

ロ 保険種類 ホホエミワイド三〇〇〇カゾクショウガイ

ハ 保険期間 昭和六〇年三月一九日から同六一年三月一九日まで

ニ 保険金額 本人入院日額 金四〇〇〇円

本人通院日額(免責七日) 金二〇〇〇円

ホ 保険料 第一回目 金三〇〇〇円

第二回目以降 金三〇〇〇円 一二回払

ヘ 被保険者 原告

4  原告は、被告県共済と左の共済加入契約を締結し、月掛金を支払つた。

(一)イ 加入日 昭和五九年六月一日

ロ 種類 全国生活協同組合連合会の生命共済、同交通災害保障共済、及び被告県共済の生命共済

ハ 月掛金 金二〇〇〇円コース

ニ 給付金額 不慮の事故による五日以上の入院(交通事故を含む。)

日額金三〇〇〇円(一二〇日限度)

交通事故による一四日以上の入院

日額金一四〇〇円(一八〇日限度)

交通事故による一四日以上の実通院

日額金一〇〇〇円(九〇日限度)

ホ 被共済者 原告

(二)イ 加入日 昭和五九年一一日二九日

ロ 種類 生命共済

ハ 加入口数 五口

ニ 月掛金 金一〇〇〇円コース

ホ 給付金額 入院日額 加入口数一口につき金三〇〇〇円(一二〇日限度)

加入口数一口につき金一五〇〇円(一二一日以上一八〇日まで)

通院日額 金一〇〇〇円(九〇日限度)

5  原告は被告県労済と左の共済加入契約を締結し、月掛金を支払つた。

(一)イ 加入日 昭和五九年一二月一九日

ロ 共済期間 昭和五九年一二月二〇日から同六九年一二月一九日まで

ハ 種類 個人長期生命共済(希望共済)

ニ 月掛金 基本 金三四〇〇円

傷害特約 金一五〇〇円

ホ 給付金額 傷害による入院 日数 金一万円

ヘ 被共済者 原告

(二)イ 加入日 昭和五九年一二月一九日

ロ 共済期間 昭和六〇年一月一日から同年一二月末日まで

ハ 種類 交通共済

ニ 加入口数 五口

ホ 掛金額 月額金五四〇〇円

ヘ 給付金額 入院 加入口数一口につき

日額金二〇〇〇円

通院 加入口数一口につき

日額金一〇〇〇円

ト 被共済者 原告

(三)イ 加入日 昭和六〇年五月三一日

ロ 共済期間 昭和六〇年六月一日から同六一年五月三一日まで

ハ 種類 団体生命共済・交通災害共済(こくみん共済)

ニ 加入の型(円形) 三〇〇〇

ホ 保障額 交通事故による入院

日額 金八〇〇〇円

交通事故による通院

日額 金一五〇〇円

ヘ 被共済者 原告

6  原告は、昭和六〇年七月一日午前二時五〇分ころ、普通乗用車(車両番号名古屋五九ね四二四五、以下「原告車」という。)を運転して名古屋市中区大井町地内名古屋市道高速環状線東別院オフランプ〇・一キロポスト付近道路を大高インターチエンジ方面から東別院出口方面に向かい時速約六〇キロメートルで進行中、前方道路が右方へ急カーブしていたので、時速約四〇キロメートルに減速して進行したが前記カーブを曲がり切れず、自車左前部を左前方道路左端の側壁に衝突させ、同時に右ハンドルを切つたとき右壁高棚に自車右前部を衝突させた。

7  原告は、右事故により、脳挫傷、頭部打撲創、胸部打撲傷兼第四肋軟骨亀裂骨折、頸部挫傷、腰部挫傷、両膝関節挫創の傷害を受け、名古屋市北区平手町一丁目九―一竹中外科に昭和六〇年七月一日から同年一〇月三一日まで入院、同年一一月一日から同年一二月二八日まで(うち実日数四九日)通院治療を受けた。

原告の症状は、創傷部に腫脹疼痛が有り、レントゲン検査にて骨折が認められまた生理的湾曲強く、嘔吐、嘔気が有り、入院治療を受けるも長期間嘔気嘔吐が続き、創傷部の疼痛取れず持続けん引及び薬物療法の施行を受ける状態であつた。原告は、右入通院期間中生活機能または業務能力の滅失または減少をきたし、平常の生活・業務に従事することができなかつた。

8  原告は、被告らに対し、次のとおりの保険金等の支払請求権を有する。

(一) 被告東京海上に対し、金二一三万円

入院日額一万五〇〇〇円×一二三日 金一八四万五〇〇〇円

通院日額 五〇〇〇円×五七日 金二八万五〇〇〇円

(二) 被告同和火災に対し、金三四一万五〇〇〇円

(1) 搭乗者傷害医療保険金(自家用自動車普通保険約款第四章第七条)

入院日額一万五〇〇〇円×一二三日 金一八四万五〇〇〇円

通院日額一万円×五七日 金五七万円

(2) 自損事故医療保険金(約款第二章第八条)

金一〇〇万円

(三) 被告日動火災に対し、金七三六万八〇〇〇円

(1) 団地傷害保険金(団地保険普通保険約款第一章第三節第二八、二九条)

入院日額六〇〇円×二〇口×一二三日 金一四七万六〇〇〇円

通院日額四〇〇円×二〇口×五七日 金四五万六〇〇〇円

(2) 積立フアミリー交通傷害保険金(積立フアミリー交通傷害保険普通保険約款第四章第一五、一六条)

入院日額一万五〇〇〇円×二契約×一二三日 金三六九万円

通院日額一万円×二契約×五七日 金一一四万円

(3) ホホエミワイド傷害保険金

入院日額四〇〇〇円×一二三日金四九万二〇〇〇円

通院日額二〇〇〇円×五七日 金一一万四〇〇〇円

(四) 被告県共済に対し、金二六八万八七〇〇円

(1) 生命共済災害特約・交通災害保障共済給付金

入院日額四四〇〇円×一二〇日金五二万八〇〇〇円

一四〇〇円×三日 金四二〇〇円

通院日額一〇〇〇円×四九日 金四万九〇〇〇円

(2) 生命共済給付金

入院日額一万五〇〇〇円×一二〇日 金一八〇万円

七五〇〇円×三日金二万二五〇〇円

通院日額 五〇〇〇円×五七日 金二八万五〇〇〇円

(五) 被告県労済に対し、金三八一万四五〇〇円

(1) 個人長期生命共済給付金

入院日額一万円×一二三日 金一二三万円

(2) 交通共済給付金

入院日額二〇〇〇円×五口×一二三日 金一二三万円

通院日額一〇〇〇円×五口×五七日 金二八万五〇〇〇円

(3) こくみん共済給付金

入院日額八〇〇〇円×一二三日 金九八万四〇〇〇円

通院日額一五〇〇円×五七日 金八万五五〇〇円

9  よつて、原告は、被告東京海上、同同和火災、同日動火災に対し、それぞれ前記各保険金とこれに対する本訴状送達の翌日である昭和六一年六月五日から各完済まで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払いを、被告県共済及び同県労済に対し、それぞれ前記各給付金とこれに対する右同日から各完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の事実は認める

3  同3(一)ないし(四)の事実は認める。

4  同4(一)及び(二)の事実は認める

5  同5(一)及び(三)の事実は否認する。

原告主張の(一)及び(三)の共済加入契約の当事者は、訴外全国労働者共済生活協同組合連合会(以下「全労済」という。)であり、被告県労済は、その取扱団体にすぎず、契約当事者ではない。

同5(二)の事実は認める。

6  同6の事実は否認する。原告主張の態様の本件事故は、以下に述べるとおり、事実は発生していない。

すなわち、第一に、原告車は、時速四〇キロメートルの速度で進行していたとすると、本件事故現場のカーブを横滑りしないで安定して旋回走行することができるはずであるから、道路左側の側壁(以下「左側壁」という。)に衝突することはない。また、仮に左側壁に衝突することがあるとしても、原告主張のように、左側壁への第一衝突の後、右回転して幅員七・五メートル道路の右側の側壁(以下「右側壁」という。)の、右第一衝突箇所からわずか一〇・九メートル離れた距離の部位に再び衝突することは、本件事故現場の道路条件の下で、時速四〇キロメートルで走行しているという運動条件では起こり得ないものである。

第二に、原告車の損傷状態と、原告主張の本件事故態様との間に整合性が全く認められない。

以上のとおり、事故の発生自体が不自然であるほか、偽装事故の徴表として、<1>事故に接近した日に異常に多種類にして多額の生命・損害保険(共済保険を含む。)契約を締結していること、<2>事故発生時に事故現場を原告車が通行すべき必然性ないし必要性が全くないこと、<3>受傷の事実について疑義があること(後記7)、<4>問題のあるとされる医療機関を選択して入通院し、しかも、入通院期間は医療保険金給付期間の上限の一八〇日前後であることなどがある。

7  請求原因7の事実は否認する。

原告主張の各傷害は、いずれもその診断に誤りがあるかあるいは根拠のないものである。これは当該担当医師も認めるところである。また、原告は、入院中にもかかわらず、外出外泊を繰り返し、昭和六〇年九月二五日には、別の交通事故を発生させており、しかも車両の損傷状況(大破)からみて衝突による衝撃は大きなものであつたと推測されるのに、入院中のカルテにはこのことは全く記載されていない。

このことからすると、右事故よりも軽微な車両の損傷しかない本件事故によつて、原告に傷害が発生したものとは考えられない。

8  請求原因8は争う。

三  抗弁

(被告東京海上、同同和火災、同日動火災、同県労済)

仮に、原告主張事実とは異なる何らかの事故が発生しており、そのために原告が傷病を負つたと認められるとしても、原告は、原告主張のような事故が発生していないことを知りながら、本件事故が発生した旨「不実の事故」を右被告らに対して通知したものであるから、各契約の約款(不実の事故通知による免責)の規定に基づき、右被告らは、原告に対し、保険金の支払義務を負わないものである。

四  抗弁に対する認否

抗弁事実は否認する。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これらを引用する。

理由

一  請求原因1(被告東京海上との保険契約)、同2(被告同和火災との保険契約)、同3(被告日動火災との保険契約)及び同4(被告県共済との保険契約)の事実は、いずれも当事者間に争いがない。

二  請求原因5(被告県労済との保険契約)の事実は、(一)及び(三)の共済加入契約の当事者が県労済か全労済かという点はさておき、その余の契約内容については当事者間に争いがない。

三  そこで、請求原因6(本件事故の発生)について判断する。

1  本件事故が発生したとの原告主張に沿う証拠として、甲第一号証(交通事故証明書)、第一四号証ないし第二一号証(実況見分調書、供述調書等刑事記録、但し、第一七号証を除く。)並びに原告本人の供述がある。

2  しかしながら、本件事故の発生自体を疑わせる次のような事実がある。

鑑定の結果及び証人佐々木恵の証言によれば、以下の事実が認められる。

(一)  原告車は、時速四〇キロメートルの速度で進行していたとすると、本件事故現場のカーブを横滑りしないで安定して旋回走行することができる。したがつて、カーブに沿つて走行していれば左側壁に衝突する状況は生じない。そして、事故状況が原告主張(甲第一五号証中の原告の指示説明)のように、左側壁への第一衝突の後、右回転して幅員七・五メートル道路の右側壁の、右第一衝突箇所から一〇・九メートル離れた距離の部位に再び衝突することは、事故現場の条件で時速四〇キロメートルで走行する原告車の運動状況としては起こりえない。

(二)  原告車のフロントバンパー左側面部付近、左フロントフエンダー前下部の変形、凹損は、左から右向きの外力がフロントバンパー左側面部に与えられて生じた損傷状態のようであり、左側壁に左斜め向きに当たつて生じた損傷とは思われない。また、原告車の左側面の損傷は、フロントバンパー付近だけであり、フエンダー側面上部には損傷がないが、左傾斜した横滑りの車両のフエンダー上部が左側壁に接触しないで下部だけが接触することは非常に不合理である。

次、仮に、原告主張のとおりの箇所で原告車が右側壁に到達したとすると、原告車の向きは右側壁に対して直角に近い角度となるから、フロントバンパー前面が衝突するはずであり、右フロントフエンダー側面の擦過が生じる姿勢とはならない。また、原告車が右側壁への第二衝突により停止した(原告本人尋問の結果により認める。)とすると、原告車右側面部の変形はもつと大きくなるはずである。

したがつて、原告車の左側面部及び右側面部の損傷状況は、いずれも原告主張の本件事故態様との整合性がない。

3  右に加えて、成立に争いのない甲第一五号証によれば、昭和六〇年七月一三日の実況見分時に原告が立ち会つて指示説明を行つていること、衝突地点と目される壁高欄には黒色のバンパーのこすり痕がついている程度で、道路公団には被害はなかつたことが認められるが、原告は、現場の側壁には何十もの車の当たつた跡があつて、本当はどこに当たつたか分からなかつたが、大体この辺ということで警察官に指示した(原告本人尋問の結果により認める。)というのである。

また、本件事故は、深夜の午前二時五〇分ころ発生したものとされているが、原告本人尋問の結果によつても、原告が本件事故現場をこの時間に何故通行していたか必ずしも明らかでないうえ、事故直前の運転状況に関する原告本人の供述もあいまいである。

したがつて、そもそも原告車による擦過痕ないし衝突痕が事故現場の側壁についたものか否か、あるいは原告主張のような傷害を発生させうる程度の衝突があつたのか否か疑問なしとしない。

4  また、成立に争いのない甲第一四号証及び原告本人尋問の結果によれば、原告は、本件事故現場から原告車を自ら運転して高速道路を走行し、その出口から出た後停車して、午前三時ころ警察に連絡をとつたこと、しばらくして警察官が二名来て原告車の見分のみを行つたこと、原告は、警察官から救急車を呼ぼうかと言われたが、大したことはないと拒わつたこと、その後、原告は、早朝になつてから行きつけの近くの竹中外科に行つてそのまま入院したことが認められるが、この原告の事故直後の行動も不自然さがあることは否めない。

5  さらに、原告の本件事故による傷害について、原告主張に沿う竹中外科医師の診断書、入院証明書等(甲第二号証、第三号証、乙第五号証、第八号証の六、第九号証の二)が存在するが、「脳波は大きな異常を認め」との乙第五号証、第八号証の六、第九号証の二の各記載部分は、甲第三号証及び証人竹中茂晴(以下「証人竹中」という。)の証言に照らして明らかな誤りであることが認められる。また、甲第三号証中の「第四軟骨亀裂骨折」と「レントゲン検査にて骨折を認め」との記載は、成立に争いのない乙第一二号証及び証人竹中の証言に照らすと、論理的に結びつかない矛盾した記載であることが認められるほか、甲第三号証中の「長期間、 気、 吐続く」との記載部分も、成立に争いのない甲第一七号証(竹中外科における原告の診療録)に照らして措信できず、ひいては事故当日の診断書(甲第二号証)も、原告の症状を正確に診断したものか疑問がある。

6  右のとおり、原告の傷害について、診断の内容、入院の必要性についても疑問が多いところ、成立に争いのない乙第四号証の一ないし三五及び原告本人尋問の結果によれば、原告は、竹中外科に入院中の昭和六〇年九月二五日、外出中に自動車を運転して交通事故(交差点での側面衝突)を起こしたこと、右自動車の事故による損傷の程度は、運転席側面が大きく凹損するなど本件事故による損傷よりは、はるかに大きいことが認められ、このことからすれば、原告の身体への衝撃も相当大きなものであつたと推認できる。

にもかかわらず、原告は、竹中外科医師に右事実を告げず(原告本人尋問の結果により認める。)、竹中外科医師も右事実を知らなかつた(証人竹中の証言により認める。)というのであるから、竹中外科医師が入院中の原告の症状をどれほど正確に把握していたか疑問であり、前記入院証明書等の信憑性はますます低いといわざるをえない。

7  結論

以上によれば、本訴において原告が具体的に主張する態様の事故が発生した事実については、前記鑑定の結果及び証人佐々木恵の証言により明らかなとおり、これを否定せざるをえない。また、仮に、交通事故の発生は、一瞬の出来事であり、具体的な事故状況については当事者の供述に不正確な点が残るとの一般論を容認するとしても、本件の場合は、原告主張の事故発生状況と原告車の損傷との整合性が認められないほか、本件事故は、深夜目撃者のいない場所で発生した自損事故であつて、しかも前記3ないし6説示の多くの疑問点が存在するのであり、結局、本件保険金請求の要件となる契約約款上の「急激かつ偶然な外来の事故の発生」又は「交通事故の発生」並びに「身体に傷害を被つたこと」の事実を認めるに足りる的確な証拠はないといわざるをえない。

四  以上の次第で、原告の請求は、いずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 芝田俊文)

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